FIFA女子ワールドカップの頂点に立ってから10年・・・ロンドンオリンピックで史上初の銀メダルを獲得するなど日本女子サッカーの躍進のど真ん中で走り続けていた近賀ゆかり。その潮流に一区切りついたとき、彼女の視線は海外へ向いていた。さらなる経験を重ねた今、再び日本のトップリーグに立った。新たなポジションへの挑戦。そのバイブルは彼女の心の中にある共に世界を目指した偉大な先輩の姿だった。
——北京オリンピック直前にサイドバックにコンバートされましたが、そこまでは一切守備的要素には触れてこなかったのでしょうか?
小学校の頃からFWでした。サイドハーフでプレーしたことはあったんですけど、もう攻撃しかやってなかったですね。
——サイドバックになったときの一番の衝撃は?
身体の向きです。ここにボールがあるときはこっちの角度、逆を向いてた方が良かった、とか考えるようになりました。当然備わってるべき能力なんですけど、そこがゼロだったがゆえに本当に基本の「き」から始まりました。DFラインを合わせるのはそれから。とにかく私は周りの先輩方に引っ張ってもらってたので(笑)
——ではターニングポイントを挙げるとすると・・・
間違いなくサイドバックになったことです。それまではDFに攻撃のイメージがなかったんですけど、サイドバックは攻撃参加ができるポジション。自分の特長を出すためにもそこはやっていかなきゃならない生命線でした。自分に一番合ってるって思えたポジションがサイドバックでした。
——リオデジャネイロオリンピック予選敗退後、より海外でのプレーに重きを置いてきましたが、海外で挑戦したい気持ちが大きくなるきっかけになったのでしょうか?
はい。日本代表としてプレーするのと、外国人選手の一人としてプレーするのとでは別物。サッカーって一つじゃないですよね。自分が知ってるサッカーは小さい世界だと感じていたので、色んなところで色んなサッカーが見たかったんです。
——その結果、何が得られたのでしょうか?
日本人特有の部分も強みに変えられることを実感しました。海外に出たら外国人は“助っ人”、結果を求められます。そのプレッシャーの中でも、得点だけではなく目に見えない部分、バランスを見たりハードワークするところを評価してもらえた。これ、日本人選手は得意だと思うんです。そこでも勝負できる、強みとして持ってもいいんだなって、日本人選手の良さを再確認できました。
——今はボランチでプレーしていますが、取り組んでいて感じたことは?
とりあえず隣にラインがないのが不安でした(笑)。首を振る角度も全然違う。360度視野を取らなきゃいけないなど、自分に備わってないものがたくさんありました。今までは走っていればボールが出てきてたことを考えると・・・、私がサイドバックでプレーしてたときに組んでた人たちの凄さをしみじみ感じました。
——またそうそうたる顔ぶれと組んでましたから。
幸せなことに澤(穂希)さんだったり、酒井(與恵)さんだったり、ボールを預ければ何でもしてくれるボランチばかり見てきて、すごいお手本を一番近くで見させてもらってたと思います。その残像が残ってるんですよね。展開できたな、くさび入れられたな、とか思ったときに、この人だったらこのテンポで入れてた、ここにトラップしてるかも、一回リターン入れてるかも、とか・・・。今もその人たちの姿を追いかけてプレーしています。
——贅沢なデータベースをお持ちで(笑)
本当に(笑)。それが実践できれば一番良いんですけど、ハイレベル過ぎて追いつけないです。
——みなさんにお伺いしている質問なのですが、今年の私は〇〇が違う!と掲げるものは何ですか?
今年の私はバックステップが違います!今更ですけど、ホント大事(笑)。この前テレビで中村憲剛さんが言ってて「確かに!」って落ちてきたんです。今までも練習でその大事さは言われてきたし、レジーナに来てからもすごく伝えてくれてることもあって、遅ればせながらマッチした感じです(苦笑)。これを習得することが出来たらまた一つプレーの幅を広げられるので、そこはチャレンジしたいと思っています。
——WEリーグ一番〇〇な選手になる!というのはいかがですか?
WEリーグで一番最後まで諦めない選手でありたいです。私は突出したものがある訳ではないので、試合の最後の最後まで走り続ける諦めない姿を応援してくださるファン・サポーターのみなさんに見せたいです。
【プロフィール】
近賀ゆかり(きんが ゆかり)
1984年5月2日生まれ、神奈川県出身
MF、背番号10
東汲沢小学校サッカークラブ → 横須賀シーガルズ → 湘南学院高校 → 日テレ・東京ヴェルディベレーザ → INAC神戸レオネッサ → アーセナル・レディース(イングランド) → INAC神戸レオネッサ → キャンベラ・ユナイテッド(オーストラリア) → 杭州女子倶楽部(中国) → メルボルン・シティ(オーストラリア) → 杭州女子倶楽部(中国) → メルボルン・シティ(オーストラリア) → オルカ鴨川FC → メルボルン・シティ(オーストラリア) → オルカ鴨川FC → サンフレッチェ広島レジーナ