JFAアカデミー福島では、数々の海外遠征で視野を広げ、U-17女子ワールドカップで頂点に立った。しかし、なでしこリーグでは出場機会を待ち続ける経験もした。WEリーグ発足をきっかけに、新天地・大宮アルディージャVENTUSに移籍。活躍の兆しが見えていたが、ケガでリハビリ生活に。サッカーから離れていく心を必死に繋ぎ止め、強さを増したサイドアタッカーがピッチに戻ってきた。
——中高6年間は寮生活でサッカー漬けの日々。その中で最も身に着いたものは?
人との関わりが増えました。アメリカ、ドイツ、スペインと海外遠征が多くて視野が広がり、海外のサッカーという視点を置くようになりました。
——高校生の時に日本代表メンバーとしてFIFA U-17女子ワールドカップを制しました。
世界一になることはそんなに簡単なことではないと思います。試合に出させてもらったことは自分にとって大きかったです。大会直前の合宿でセンターバックにコンバートされていたので、とにかく必死でした。優勝した瞬間は今まで感じたことがない感情になり、なんで泣いているんだろうと思うくらい涙がこぼれたのをよく覚えています。
——選手として今までで最も濃厚な時間はその頃ですか?
そうですね。でも浦和レッズレディース(当時)の4年目も同じくらい濃かったです。4年間、試合に出られることがほとんどありませんでした。それでも、(安藤)梢さんと(猶本)光さんに「練習で良さを出し続けないと、いざとなった時に発揮できないよ」「やり続けることを身に着ければ、他のチームに行った時にもそれが学びとなって活きてくるよ」と本当に何回も何回も言い続けてもらって・・・。やり続けることで成長できることを知りました。
——そして移籍を決断します。
やり続ける力を発揮する場所ができたと思いました。一番は試合に出たい気持ちが大きかったです。練習でやり続けることを学んだけど、試合に出ることでの成長や悩みが止まっちゃうと感じたので決断しました。
——大宮Vでは新しいチームならではの難しさもあったのでは?
私自身、一年目で前十字靭帯を切るケガをしたので、チームどうこうではない葛藤がありました。ただただ苦しい、悔しい一年でした。しかもケガをしたのがレッズ戦の直前で、より気合が入っていたこともあって、跳ね返ってきた悔しさが半端なかったです。
——長いリハビリ期間を支えたものは何だったのでしょう?
前にも同じ経験をしていて、2回目があったらサッカーをやめようと思っていました。だけど、周りから「待っているよ」という言葉を本当にたくさんもらって、それが励みになりました。試合に出ている姿を親に全然見せられていなかったのもありますね。それから、年齢的にもまだ諦めなくていいな、と思うようになって・・・
——落ち着いて見えますが、まだ23歳なんですよね。
落ち着きがあるように見られるんですけど、中身は全然大人じゃないですよ(笑)
——リハビリの苦しさから培ったものはありますか?
メンタルと言うより、身体の作りでしょうか。自分の身体に向き合って、どこを変えれば良いか、筋肉をどこにつければ良いか、細かいところを念入りに学びました。まだ改造途中なんですが、お尻、腰回り、太ももに重視して筋トレや連動をしています。それが身に着けば、身体で当たり負けせずに踏ん張れて、ドリブルをする時にも身体を上手く使いながら突破したり、シュートの幅が広がっていると思います!
——頼もしいですね!
相手にとって常に怖い選手でありたいです。ケガをしていた分、自分のプレースタイルを相手はまだわかっていないと思います。背が高いからポストプレーが得意そうに見られがちですけど、それよりも個で剥がすほうが得意だったりします。
——ではここでみなさんにしている質問を。ここからどんなWEリーグにしていきたいか、大熊ビジョンを聞かせてください。
サッカーは観るのも大好きで、海外のサッカーにも興味があります。海外の選手にも同じように、WEリーグに興味を持ってほしいです。今は日本から海外に挑戦する選手が増えていますけど、海外の選手に「WEリーグに挑戦したい」と思ってもらえる、世界から注目されるリーグにしていきたいですよね。イングランドのリーグで何万人もの観客を集めているのを見て、私たちもああなりたい、という素直な願望があります。
——WEリーグ全11クラブの中で、大宮Vの観客動員数は2番目でした。
ホームのNACK5スタジアム大宮の雰囲気は、やはり他とは違いますね。なんといっても観客席が近いです!
——カップ戦で復帰し、ファン・サポーターの前でプレーを見せることができました。
まだまだ、でした。アジリティもですけど、プレーへの自信というか、いざ目の前に相手がいると慌てたり、迷いが出ました。そこを迷いなく勝負できたら、誰が来ても抜ける自信はあります(笑)
——では最後に大宮Vのここを見てください!という見どころをお願いします。
まだまだ発展途上のチームですが、昨シーズンより戦術の土台に共通意識を落とし込めています。今のままではリーグ戦で上位に行くのが厳しいことは事実だと思うので、最後の局面でのパスやシュートの質をもっと高めていきます。
——大熊選手個人としては、どんなプレーを見せてくれますか?
個人でもドリブルで打開する場面を作れたら、チームとしても余裕ができて、良い流れで慌てずにプレーできると思うんです。
あとイメージしているのは、ブラジルのコウチーニョ選手。左からカットインして巻くシュートが昔からすごく好きでよく見ていました。自分の中でのカットインのリズムは持っているので、そこのシュートレンジの幅を広げていきたいです。武器の一つとして見せたいと思っているので、ぜひ観に来てください!
(インタビュー・構成=早草紀子)
【プロフィール】
大熊良奈(おおくま らな)
1998年12月23日生まれ、埼玉県出身
FW、背番号14
新座陣屋キッカーズ → JFAアカデミー福島 → 浦和レッズレディース → 大宮アルディージャVENTUS