早い時期から海外でプレーし、25歳で一度は引退するも、スポーツ学を学ぶためFIFAマスターを受講し、27歳で再びピッチに戻ってきた大滝麻未。これだけでも彼女のバイタリティを想像するには十分だが、WEリーグ開幕を前に、結婚、妊娠、出産とさらなるチャレンジに乗り出した大滝。今年の皇后杯決勝で公式戦での復帰を果たした。アスリートとして、母親として、人間として——そのすべてを繋ぐツールとしてサッカーはいつも彼女に寄り添っていた。
——大滝選手は国際経験が豊かですが、もともと海外志向は強かったのでしょうか?
中学3年生の時に所属していたクラブで行ったアメリカ遠征で、現地の大学チームと練習試合をしたのですが、それが有料試合だったんです。こんな世界があるんだとカルチャーショックを受けて、それがきっかけかもしれません。外国の言葉が好きだったので、海外でプレーすることが夢でした。
——大学時代にはカナダへ留学、そしてヨーロッパの強豪であるオリンピック・リヨンへの移籍も果たしました。
その二つとも、ユニバーシアード大会がきっかけでオファーをもらいました。当時の私は世代別の日本代表メンバーに選ばれず、国際大会のチャンスが本当に限られていたので、海外へのアピールはユニバーシアード大会しかないと狙っていました(笑)
——その後なでしこジャパンに招集され、さらに海外へ活躍の場を移していた中、25歳で引退を決意します。
何かしたいことがあった訳ではないです。2011年のワールドカップでの優勝を見て、女子サッカーがもっと盛り上がってほしいとは思っていましたけど。若い時期ならまだいろんな可能性がある、とどこかで自分に言い聞かせているところもありました。でも一番大きかった理由は・・・ずっと「自分はもっとできる、もっとできる」と思って頑張るけど、なかなか結果が出ない時期が本当に長く続いたことです。そのまま頑張ることもできたと思います。でもこれ以上頑張ったら自分がダメになりそうだと思いました。
——その後を模索している中で選んだのがFIFAマスターでした。
22か国から集まった、価値観が全く違う30人で共同生活をしていたのですが、サッカーという共通言語を介すことで一つになる実感がありました。もちろんぶつかることもあるけど、サッカーってすごいなと感じる1年でした。現役復帰はここでの仲間に背中を押されたことが大きいですね。
——27歳で現役復帰。見える景色は違いましたか?
確実に変わってはいるのですが、まだ「なんだろうこの感覚!」という感じです。一つ言えるのは、復帰してからサッカーを初めて楽しめています。サッカーがあったからいろんな経験をさせてもらった、だからこそ見える景色だと思います。みんな、サッカーの可能性を使い切れていないと本当に思います。よく選手が「サッカーしかして来なかったから」と言いますけど、これは悲しい。違う視点でサッカーを捉えると、別の可能性が見えてくると思います。
——WEリーグの開幕前には結婚・妊娠・出産と大きな選択をします。引退も考えたと話していましたが、チャレンジの方向へ舵を切れたのはなぜですか?
WEリーグが開幕する前の環境で、会社に勤めながらサッカーをして、さらに子育てもするのはキツいです。プロだからできる選択肢でした。あとは一人でできることではないので、家族がそれについてどう考えるか。当初は子どもが欲しいし引退だろうな、と思っていたのですが、夫に「なんで子どもができたら引退しなきゃいけないの?」と当たり前のように言われました。みんなが当たり前に捉えられたら、結婚、出産は女性にとって大きな選択肢にならないんだ、ということを夫から学びました。
——昨年11月に出産して2月の皇后杯決勝が復帰戦でした。驚異的な復帰期間に見えます。
これが早いのかはわからないです(笑)。(短期間では)復帰できない、という前提があるだけなので。妊娠・出産は100人100通りなので、やり方は人それぞれだから難しいんですよね。私の場合は先生にお腹の張りを見てもらいながら、トレーニングできるかは自分で判断していました。自分の身体を知るのは大事なことです。初めてケガをたくさんしてきた経験が活きたと思いました(笑)。おかげでその時のコンディションに合わせたトレーニングメニューをある程度自分で組むことができました。
——実際にピッチに立った感想は?
立てたことに感謝の気持ちでした。ただ、妊娠する前よりも良い状態にしたいと思っていたので、そこを本当の意味での復帰と捉えるとまだまだです。でも、1週間ごとにできることが増えていくという面白さはあります。
——子どもの成長とリンクして面白いですね。
最近は子どもが自己主張するようになってきました。練習中は夫が見てくれているのですが、私のことは「良くお世話をしてくれる人」くらいの認識かもしれません(苦笑)。そのうち、ママが抱っこすると泣くみたいなことになるんじゃないかと心配です。トレーニング後も自主練でスキルを上げたいという想いと、すぐにでも帰って子どもとの時間を持ちたいという想いのバランスが難しいです。
——みなさんにお伺いしているのですが、ここからどんなWEリーグにしていきたいか大滝ビジョンを教えてください。
子どもができてから行きづらい場所がすごく多いことに気づきました。ここエレベーターないんだ、とか。自分がその立場に立たないとわからないことでした。だから、WEリーグのスタジアムを一人一人にとって来たいと思う場所にしたいです。 “一人”を想って動けるリーグ。どんな人でも楽しめるコミュニティになると良いですよね。
——大滝選手は以前から「なでしこケア」という選手主体の活動をしていますが、WEリーグが掲げる理念についてどう思いますか?
時代が追いついてきたな、と(笑)。冗談です!本当に素敵なことだと思うので、これをどうやって体現していくのか、選手たちのマインドを変えていくのかだと思います。私も活動をしていてそこのアプローチが難しいところだったので、勉強させてもらいながら一緒に作っていけたらと思っています。
——皇后杯準優勝から後期に入って、チームは成熟しつつありますね。
そう思います。復帰して練習に来た時に、若手の成長が凄まじくて驚きました。この1年のスパンですごく成長している。その力が確実にチームを支えています。私としては悔しい部分もあるので、まだ伝えていないですけど(笑)。チームの戦い方として、しっかり守りから入るという共通意識は確立してきました。前期で勝っていた時は少ないチャンスで上手く点が入っていたので、今はそのチャンスをどれだけ増やして行くかの転換期だと思っています。
——後期、大滝選手はどんなプレーを披露してくれますか?
私は長い時間試合に出ることで流れを掴むタイプではありますが、今は短い時間で何ができるかを求められています。前年のシーズンではクロスに合わせることを特長として持っていたので、迫力を持って思い切り入っていって、そこでチャンスを作れる選手だというのをぜひみなさんに見てもらいたいです!
(インタビュー・構成=早草紀子)
【プロフィール】
大滝麻未(おおたき あみ)
1989年7月28日生まれ、神奈川県出身
FW、背番号9
港FC → 横須賀シーガルズ → 早稲田大学 → オリンピック・リヨン(フランス) → 浦和レッズレディース → EAギャンガン(フランス) → パリFC(フランス) → ニッパツ横浜FCシーガルズ → ジェフユナイテッド市原・千葉レディース