植木理子はどこまでも真っすぐなアスリートだ。挫折を知らない少女が日テレ・東京ヴェルディベレーザという名門でぶつかった大きな壁の連続。次々と現れる壁にも真向勝負を挑んできた。夢だったワールドカップからの離脱は人生最大の試練だったと振り返る。どん底から立ち上がったストライカーはより頼もしくなってピッチに戻ってきた。その源には“人一倍、一生懸命に頑張る”という誰もができて、だからこそ難しい純粋な想いが溢れていた。
——植木選手と言えば、日テレ・東京ヴェルディセリアス、メニーナ、ベレーザと猛スピードで成長していったように見えます。
でもサッカーを始めたのは小学5年生からです。小学校の校庭が広くて、休み時間にみんなでサッカーで遊んでいたんですけど、それが楽しくてやりたいって言いだしたそうです。両親談ですけど(笑)
——では一気にサッカーにのめり込んでいったんですね。
そうですね。中学生になってセリアスに入ったんですけど、一期生ということもあって中心選手としてプレーできていたので、ほぼ挫折はなかったです。そこからメニーナ、ベレーザに上がっていくと当然ながら上手い人たちばかりで、壁に何度もぶつかりました。しかもかなり分厚めの(笑)
——その中でどのように自分の強みを見つけましたか?
中学時代まではただがむしゃらでしたけど、やっていくうちにドリブルや裏への動きが強いと思えるようになりました。でも高校3年生でベレーザに上がると本当に何もできなくて、最初の一か月は毎日泣いていました(苦笑)。少しずつ少しずつやれることが増えてきた感じです。それから、がんばることは誰にも負けちゃいけないと思っています。誰にでもできることじゃないですか。だからそこだけは負けたくないです。ベレーザにはがんばる人しかいないので、人一倍がんばらなかったら自分はこのチームにいられない。いい意味でがんばらざるを得ない環境があるのはありがたいです。
——その頑張りがなでしこジャパン招集へつながっていきます。
最初に招集された2019年当時はU-20女子ワールドカップで優勝した後だったので、そのメンバーから何人かは呼ばれるだろうと思っていました。自分がそこに選ばれて素直に嬉しかったです。でもそんな気持ちは束の間のことで・・・
——やはりU-20とは違いましたか。
違いますね。なでしこジャパンとしてアメリカと対戦した時に、勝負強いというか、勝つためのサッカーというものを感じました。何もできなくて、まだまだだなと思いました。
——そしてここから!というワールドカップの舞台で現地入りしていながら、大会前にケガで離脱することになりました。
人生で一番悔しかったですね。ワールドカップ、オリンピックは幼い頃から目指しているところだったので、そのチャンスをケガで自ら手放したのは悔しかったし、帰国してからも受け入れるまでに時間がかかりました。
——その悔しさを経て、昨年11月には池田太監督の初陣でもあるオランダ遠征でアイスランド戦のスターティングメンバーに名を連ねました。
嬉しかったですね。日の丸を背負って戦いたいという気持ちがさらに高まりました。相手の動き出しのスピード、プレスの強さに対応しながらプレーできましたが、ゴールを決められなかったのが心残りです。フォワードとしてワンチャンスをモノにするのは必要なこと。すぐに上がる技術ではないですけど、タイミングを意識するだけでも変わってくると思うので、一つずつ積み重ねて少しでもゴールを決められる選手になりたいです。
——そこはベレーザでのWEリーグ前期の戦いでも痛感したと思います。
はい。攻める時間は多いし、チャンスがない訳じゃない。前半に得点をすることで、その後余裕を持ってベレーザのサッカーができるので、前線の責任は大きいと思います。ベレーザは、たとえどんなに対策をされても勝つチームだったので、その部分では足りていないですよね。
——WEリーグが開幕してからの変化は何か感じますか?
周りからの見られ方が変わりました。プロ選手として見られるので、結果にもっとこだわらなければいけないと思います。
——これからのWEリーグをこうしていきたい、という植木選手ならではのビジョンを教えてください。
私の中では「女性活躍」という言葉がなくなることがゴールだと思っています。男性活躍って言葉はないですよね。女性活躍と言われるのはいま活躍できていないってことだから、私たちはサッカー選手として世間一般に知られないといけないと思います。これからの日本の女子サッカーにはWEリーグ自体が存在し続けることが必要で、私たちWEリーガーが「女性がサッカーを仕事としてできる」と見せるべきだと思います。
——植木選手・・・深いです。
ありがとうございます(笑)!実は大学の論文でこれをテーマにしていて(笑)、なでしこリーグとWEリーグの観客の特性の違いからWEリーグの今後を考えるという・・・
——興味深いです!どう結論付けましたか?
女子サッカー界だけで盛り上がるのではなく、世間にレジャーとして捉えてもらうことが必要だと感じました。家が近い人とか、WEリーグの試合があるらしいから行ってみようかという層をもっと獲得するために、娯楽としての価値をもっと出さないといけないと思います。
——スポーツエンターテイメントとしてどう確立していくか。ここからですね。
そう思います。
——WEリーグは3月から後期日程が始まります。どんなプレーを見せたいですか?
前期はチームとして結果が出ませんでした。個人としてもまだまだできる部分があると感じたので、後期はチームを救うゴールを決めたいです。もちろん目標は優勝なので、厳しい戦いにはなりますけど、勝ちにこだわっていきます。サポーターのみなさんには悔しい想いをさせてしまっていますが、それでも応援してくださってありがとうございます。その声に応えたいと思うので信じてついてきてください!
(インタビュー・構成=早草紀子)
【プロフィール】
植木理子(うえき りこ)
1999年7月30日生まれ、神奈川県出身
FW、背番号9
AC等々力 → 日テレ・東京ヴェルディセリアス → 日テレ・東京ヴェルディメニーナ → 日テレ・東京ヴェルディベレーザ