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レポート
2022.01.21
WEリーガーテクニカルセミナー「FOOTBALL」を学ぼうvol.4
「レフェリーから見るフットボール」

WEリーグでは、ビジョンに掲げる「世界一の女子サッカー」を実現するため、WEリーガー向けに「FOOTBALLを学ぼう」セミナーを隔週で開催します。第四回は、11月8日、「レフェリーから見るフットボール」。元国際主審であり、JFAリスペクト・フェアプレー委員会の山岸佐知子委員長に、小野剛WEリーグテクニカルアドバイザー、が質問する対談形式で実施。選手15名を含む39名が参加しました。



講義概要

小野:レフェリーになるきっかけはなんですか?
山岸:少年サッカーの手伝いをしていた際に、審判委員会の方に審判をやらないかと声をかけられたのがきっかけです。最初はこんなにのめりこむとは想像もしていませんでした。なかなかゴールにたどり着けないという面白さと、選手とは違う立場でありながら、同じピッチに立ちサッカーを楽しめることが魅力的でした。自分からというより、周囲の方からのご縁を繋いでいただいて、進んできたという感じですね。
小野:海外の試合に行ったり、世界を知っていくことで、上を目指すという思いもでてきたのではないですか?
山岸:私の場合は、目の前の試合に必死に取り組むという感じでした。国際審判員は永久的なライセンスではないので、毎試合『この試合が最後かもしれない』という覚悟で笛を吹いていました。

小野:第2回テクニカルセミナーで紹介したエモーションプロジェクトでは、レフェリーのエモーションについて山岸さんにお聞きしました。その際に「レフェリーをやっているときには、選手の安全を守ったり、正しいジャッジの積み重ねはもちろんですが、選手を理解しようということを常に心がけていました。試合中、選手自身が感情のコントロールができなくなっているときに、『なぜそうなっているのか』『原因はどこにあるのか』を考え、自分にどうにかできることはないかと自問自答していました。すべては、選手に力を発揮してほしいと思うからです。」とお話されていました。「すべては選手に力を発揮してほしいから」という言葉は非常に素晴らしいですが、なぜそこに意識がいくようになったんでしょうか?
山岸:試合を重ねる中で、特に若い選手でテクニックがあるのに様々なストレスを抱えているがために力を発揮できない選手がいることに気づきました。レフェリーとしてできることは、まずは正しいジャッジを積み重ねていくこと、そして選手が嫌がるようなことは先にこちらが動いて排除することができれば、気持ちよくプレーできるのではないかと思って取り組んでいました。

山岸:WEリーグの試合を観戦する時は、もちろんレフェリーにも目が行くのですが、いろんな視点でみることを意識しています。初めてサッカーを観るお客さんからは、「かっこいい」という言葉をよく口にしています。倒れてからすぐに立ち上がる姿に「すごいね」という言葉も聞こえます。
小野:世界一のリーグを目指すということは、実力で世界一ということだけでなく、世界一感動を与えられるリーグになっていきたいですね。レフェリーと選手は協力して価値を高める、大切なパートナーじゃないかと思っています。

小野:サッカーが進化する中で、レフェリーもトレーニングをされているんですよね。
山岸:そうですね。レフェリートレーニング、フィジカルのトレーニング以外にも、研修会などでは実地でテクニカルのトレーニングもします。ジャッジの正しさはもちろんですが、試合の流れをよんで、より適切なポジショニングからジャッジができるようにトレーニングをしています。男子の大学サッカー部に協力いただきながら、同じようなシチュエーションを繰り返しトレーニングしています。
小野:レフェリーも選手と同じように、日々戦術のトレーニングをして次の試合の準備をするということなんですね。
山岸:オリンピックの際にも、レフェリーチームに試合分析の専門家が帯同し、分析された情報を提供してもらっていました。WEリーグでは、担当レフェリーがチームの過去の試合映像を確認してから試合に臨むように進めています。さらにサッカーは年々プレースピードが上がってきています。そのため、レフェリーにもスピードに対応する力が求められます。かつてはレフェリーにフィジカルがあまり重要と思われていない時代もありましたが、今は1年に1回フィットネステストを実施しています(※現在はコロナ禍により別方式にて実施)。このテストの基準を満たせなければ年間を通してレフェリーを担当することはできません。
小野:それは厳しいですね。
山岸:ほとんどのレフェリーは仕事や子育てをしながら時間を作ってトレーニングをしています。仕事から帰宅した夜に1人でトレーニングをしていることが多いですね。

小野:テクニカルなシミュレーションや、ビデオでのイメージトレーニング、フィジカルのキープ等たくさんの準備がありますが、ゲームを良くしたいという思いからくるものですか?
山岸:はい。でもどんなに一生懸命やっていても、レフェリーも人間である以上ミスはあります。なるべくミスを減らすためには日頃の準備は非常に重要になりますので、そのために良い準備をして試合に臨もうという思いで取り組んでいます。
小野:なるほど。選手のプレーを活かしたいという思いがあるんですね。
山岸:選手が集中できる環境をつくることが最大の使命だと思っています。やはり準備は重要です。
小野:今日は選手が多く参加されていますが、何かアドバイスはありますか?
山岸:かつては選手とのコミュニケーションを控える時代もありましたが、昨今では一緒に試合をつくる仲間として、試合中にコミュニケーションをとることは大切になります。同じサッカーをつくり上げる仲間として、積極的にレフェリーとのコミュニケーションをとってほしいと思います。

小野:今はインストラクターとして後進を育てることに取り組まれていると思いますが、どんなことを考えていますか?
山岸:テキストから出てきたレフェリーではなく、個性を大切に、目の前にある試合、選手をしっかりみられるレフェリーが育ってほしいなと思います。
小野:選手のコーチングと重なる部分がありますね。試合を一緒につくる仲間として、みんなで素晴らしい試合を、そして『世界一のリーグ』を創っていきましょう。本日は貴重な話をありがとうございました。

参加した選手からは、「批判しかされない審判のモチベーションは何ですか」、「コミュニケーションシステムでどんなことを話しているのですか」などと、普段、直接質問をする機会のない審判に関しての質問が多く出されました。よりよいゲームを作るために、選手同様、日々努力している審判の実情を知り、同じフットボールファミリーの一員として、意識が高まったセミナーとなりました。

選手からの感想
柴山史菜選手(三菱重工浦和レッズレディース)

普段あまり注目されることのない審判の苦労と努力について知ることができて良かったです。

仕事や育児などをしながらひとりでトレーニングを積んでいることや試合の映像などを観て、試合の流れを事前に準備していることを知りました。審判がいて初めて試合が成り立つので、審判へのリスペクトを忘れずプレーしていきたいです。また、審判と選手は一緒に試合を作り上げていく仲間とおっしゃっていたことがとても印象に残りました。

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