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レポート
2021.10.22
WEリーガーテクニカルセミナー 「FOOTBALLを学ぼう」vol.2
「エモーション(感情)を味方につける」

WEリーグでは、ビジョンに掲げる「世界一の女子サッカー」を実現するため、WEリーガー向けに「FOOTBALLを学ぼう」セミナーを隔週で開催します。第二回は、10月11日、WEリーグテクニカルアドバイザー、JFA技術委員会小野剛副委員長による「エモーション(感情)を味方につける」。選手15名を含む33名が参加しました。



講義概要

皆さんは、試合中にちょっとしたことがきっかけでうまく行かなくなった経験や、シーズン中にある試合を機に上り調子になったという経験があると思います。 ヨーロッパサッカー連盟(UEFA)テクニカルスタディグループのファビオ・カペッロ氏(元イタリア代表監督)は、EURO2020の決勝で、有利に試合を展開していたイングランドがイタリアに負けた理由として、先制点後の恐怖心をあげていました。恐怖心はエモーション(感情)の一つ。エモーションには、いろいろな種類があります。現代フットボールの中で、技術、戦術、体力の分野では、どうしたら成果がでるかということはある程度解明されてきています。しかし、エモーションに関しては、未知の部分が多い。エモーションは、時として抑え、時として表に出していくことで、技術、戦術、体力を凌駕し試合を決定づけることが少なくありません。皆さんの試合でも、そして、ワールドカップやUEFAチャンピオンズリーグなどのビッグマッチでも、エモーションが結果を左右した試合をいくつか思い出すことができるでしょう。

UEFAは、いち早くエモーションに注目しました。現在、アジアサッカー連盟(AFC)でも、AFCエモーションプロジェクトを立ち上げ、日本サッカー協会(JFA)としても元日本代表の長谷部誠さんや宮間あやさんなどにも協力いただき進めています。今日は、フットボールではあまり取り上げられてこなかった、しかし、重要な要素の一つであるエモーションについて、実践を入れながら皆さんと考えたいと思います。

エモーションは車のダッシュボードのサインのようなもの、車の中で何かが起こっているということを教えてくれるサインです。何が起こっているかは目に見えません。サインはあくまでも、氷山の一角。その下にある、欲求(ニーズ)や価値観を見極めることが、解決の糸口となります。

怒りやあせりなど、否定的な感情が出てきたときに、「怒りをおさえなくては」とか「焦ってはいけない」とか、それ自体を悪者にしてしまいがちです。しかし、そのエモーションの裏側にあるニーズが分かれば、「〇〇しよう」という前向きなアクションにつなげることができます。

サッカーでは、様々なエモーションが降っては沸いて出てきます。そのエモーションにとらわれてしまうと、自身やチームがエモーションに支配されてしまいます。ただし、エモーションの下にあるニーズや理由を知り、「〇〇してはいけない」から「〇〇しよう」という前向きなアクションにすることができれば、エモーションは大きな味方になります。エモーションをマスターする。そのファーストステップとして、今日は皆さんと一緒に実践をしていきましょう。



ブレークアウトセッションでは、2人1組で話し手と聴き手を決めて、相手のエモーションを感じながら話を聞いてみましょう。

ポイントは、聴き手です。聴くという行為にフォーカスすることにより、その人の話している内容の情景が浮かび、そのときのエモーションや、ひょっとするとその裏側にあるものもかすかに見えてきたかもしれないですね。同じように自分のエモーションやその裏側にあるニーズなどを見つめることができれば、それがセルフアウェアネス(自己認識)につながっていくことになります。一方、話し手は、聴いてくれる人がいることで、安心して話ができたのではないでしょうか。

負けたときに自分やチームの中でどのようなことが生じていたか。負けや失敗をどう捉えるのか。「うまくいかないときに自分以外に原因を求めるということは、問題解決を放棄すること」と長谷部選手は語り、「取り返す事のできない失敗はない。たとえ、その時、失敗だと思っていても、何年か後には、自分の成長につながる成功だったと振り返る事だってある」と宮間さんは言っています。

レジリエンス(跳ね返る力)につなげること。失敗で折れてしまうのか、それとも一度はたわんでも、バネのようにしなって跳ね返るのか。エモーションを味方にできるかどうかにかかっています。

最後に、南アフリカの父ネルソン・マンデラ大統領の言葉を皆さんに送ります。

「I never lose, I either win or learn 私は負けたことがない。勝つか学ぶかだ」



選手からの感想
柴山史菜選手(三菱重工浦和レッズレディース)

今回の講義では、エモーションについての知識を得ることができました。試合中に次々と出てくる複雑な感情をコントロールすることは選手としての成長につながります。たとえ、マイナスな感情であってもそれを自分のパフォーマンスに転換できる力をつけていきたいと思いました。

また、戦う姿勢や気持ちなど選手から出るエモーションは人々に波動し、チーム、ファン、サポーターを一体にすることが可能です。その一体感は自分の力として返ってくものだと思うので観客の皆さんも巻き込んでいけるような選手になっていきたいです。

猶本光選手(三菱重工浦和レッズレディース)

試合中の感情表現もパフォーマンスの一部だということをドイツで学びました。ドイツでは感情を大きく表現しないと、「やる気がない」「戦っていない」と監督、チームメイト、観客から思われますが、日本では落ち着けと言われました。男子の日本代表戦を観た時、Jリーガーが危険なファールを受け、それに対して抗議に行ったのが海外組の選手たちで、Jリーガーたちは本人も含めて何もアクションを起こしていなかったことが印象に残っています。

試合中に抱く喜びや怒り、悔しさなどの感情が爆発的な力を引き出すことがあり、感情をパワーに変換できるのが一流の選手、チームだということを学びました。

岩清水梓選手 (日テレ・東京ヴェルディベレーザ)

サッカーにはエモーションが満載!だからこそ楽しい!それは本当にそうだなと思います。

そしてそのエモーションをコントロールしないと、勝ちをこぼすこともある…それもたぶんみんな経験したことがあることだと思います。でもそれもサッカーだなと思います。コントロールできるといいなとは思いました。でもそのときの喜怒哀楽をコントロールするのは本当に難しくて、でもそれが人間らしくていいとも思います。

自分がコントロールできるようになって、チームに還元したいと思いました。でも一番感情的になるのは自分かもしれません。(笑)

藤田理子選手 (AC長野パルセイロ・レディース)

講義の内容をこれからの自分のサッカーに生かそうと思いました。2人組のグループワークで、他チームの選手と話す機会があり、色んな経験を聞くことができてよかったです。勉強になりました。

瀧澤千聖選手 (AC長野パルセイロ・レディース)

私は、今まではその時の感情に左右されてプレーに波があったり、ネガティブに捉えることが多くありました。今回の講義を聞いて、エモーションに操られるのではなく、自分の中で起きていることを理解してコントロールする必要があると感じました。これからは何かあったときに、自分以外に原因を求めるのではなく、自分がどうすれば事態が良くなるかを考えられるようにしていきたいです。エモーションを味方につけて、選手としてさらに成長していけるように頑張りたいです。

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