2024年12月4日、三菱重工浦和レッズレディースがレッズランドで、元WEリーグ理事で、現在もスペインを拠点に活動を続けている佐伯夕利子さんを講師に迎えた勉強会、『多様性とは何か』と実施しました。
今回、浦和が実施した『多様性とは何か』は、佐伯さんが用意した6つの構成から多様性についてを多角的に考え、知る90分のワークセッションです。選手のほか、コーチングスタッフやクラブスタッフが参加し、ハイブリット形式で行われました。
浦和が“多様性”をキーワードにした勉強会を開催するに至った背景には、「多様性という言葉が社会にあふれ、一般的に使われています。でも改めて『多様性とは何か』を言語化しようとすると、なかなか難しく『これ!』と結論づけられるものが出てきませんでした。そもそも『多様性』について深い知見を持ち合わせてはいないのではないか、という疑問がわき、まずは『多様性』を知るきっかけをつくりたいということで、異文化・異国の地で長く活躍していらっしゃる佐伯さんの経験などを伺い、多様性について考えを深める機会をつくれればと考えました」とクラブスタッフは言います。
「日本で活動することが少なく、選手たちとこうした活動をすることはじめてのこと」という佐伯さんも、冒頭に「多様性という内容についてお話をするのもはじめて。とても難しいテーマですし、どのような話をしたら良いのか。とても悩みました」と語りかけて、勉強会がスタートしました。
本格的に“多様性”を考える前に、まず佐伯さんが伝えたことは“個々に考え、自分の言葉にすること”の大切さです。
「現代のフットボーラーに求められるのは国語力だと思います。それは、目で見て得る情報を自分の言葉、自分の理解、自分の思考を使ってどのように翻訳、解釈をして、プレーに移し出すことができるのかという力。それがスペインのトップチームで求められています。今回の勉強会は、この能力を磨くワークのひとつです。おそらく多様性について考えても、今日1日で“解”が見つかるものではないと思います。終わったあとに、モヤモヤするものが残るかもしれません。それでも今日は“多様性”を問い続けるための考えるワークになったらと思いますし、現代のフットボーラーに求められているスキル=国語力、読解力は思考力から生まれてくるということを理解した上で、自分の言葉で考えを発言してほしいなと思います」と佐伯さん。
勉強会の中でも、選手たちに「そもそも多様性とは何か」「生きる意味とは」「自分の多様性とは」などについてを投げかけていきます。
その言葉を受けて出てきたのは「多様性とはみんな違ってみんな良い」「多様性とは個性」「いろいろな国の文化、違いがあったときに受け入れる。個性を尊重する」「生きることは食べること」「自分の多様性は破天荒なこと。声が大きいこと」。
それぞれに色があり、自分の考えをしっかりと言葉にする選手たち。ときに明るく笑いながら、ときに真剣にメモを取りながら、佐伯さんと周囲の言葉に耳を傾けていました。
勉強会の中では、佐伯さんのこれまでの歩みに触れ、年齢や性別、日本人であることなどから「自分は多様性と呼ばれる方なんだ」と気づいたことも紹介されました。
イラン・テヘランに生まれ、日本の高校を卒業後、スペインに移住した佐伯さん。スペインサッカー協会公認ライセンスの各レベルを取得し、欧州最高レベルライセンスであるUEFA Proを取得。現在はビジャレアルCF「フットボールマネージメント部」に籍を置いています。
その歩みの途中で、見えない壁を感じる場面もあったそうですが、それでも「誰かに制約されることなく、排除されることなく、禁じられることなく、幸せなスペインでの時間を過ごしてきました。私が出会ったこの国の文化、この国の人たちの思考、もともとの概念。そういったものに支えられていた部分があると改めて感じています」(佐伯さん)と実体験から紡がれる言葉は、選手たちに大きく響いていきます。
「私たちは日本人だけのチームで、日本のリーグでプレーしています。外を見る、知る機会が少ない中で言語や宗教の違いなどを感じることも少ない状況です。今日の話を振り返ると、見た目の違い、食べるものの違いなどがたくさんある。世界は広いということを理解することが大切だと学びました」と高橋はな選手。
遠藤優選手も「私たちは世間一般の方から見るとコミュニティが狭く、サッカーでつながっている人も多いです。その中で多様性をテーマに話し合って、外の世界はもっと広いんだということを、改めて感じた時間になりました」と言葉を続けます。
2024年11月時点で、浦和のトップチームには外国籍選手やコーチングスタッフの在籍は0。選手たちが口にしたように、“多様性”という視点で見ると、そうした環境下は”小さなコミュニティ”と映るかもしれません。それでも、そのことに気づき、言葉にしていることこそ、今回の勉強会で得たものの表れです。同時に、チームはAFC Women's Champions League 2024/25に出場しているほか、各世代の日本女子代表としてアジアや世界の舞台でも戦いを繰り広げる選手たちもいます。日々の生活だけではなく、サッカーシーンにおいても“多様性”を感じる場面や体感することも多くある中で、「世界の広さ」や「違いがあること」を知り、考えるようになったことは、選手たちがより輝くための大きなきっかけ。
「今まで『多様性とは?』と聞かれたら、人種や肌の色。国籍、体の大きさ。そういうものをぱっと思い浮かべてしまっていました。でもそれだけではなく、自分が当たり前だと思っていることは、他の人から見ると当たり前じゃないこともある。そういう違いを知ることで自分の世界が広がることを学びました。自分にとっては当たり前のことでも、他の人にとっては当たり前じゃないかもしれないという意識を常に自分の中に置きながら過ごしたいと思います」と遠藤選手。
高橋選手も「多様性というものを考えてくださいと言われないと、なかなか深く考えないものだと思います。でも、興味深い話をたくさん聞く中で『多様性とは何かを考えていること自体が、もう多様性なんだ』と感じました。考えるきっかけをもらえたことが、今後につながるのかなと思います。最初に『解を見つけるわけじゃなくて問い続ける、考え続けることをまず知ってほしい』というお話があったように、答えはないと私も思います。考え続けること。理解を深めて思考を広げていくことで、自分の世界も広がっていくと思います」と話します。
多様性という言葉を一文字ずつ紐解いたり、具体的なエピソードを紹介したりとさまざまな角度から“多様性”を知る・考える色濃い時間となった浦和のWE ACTION DAY。選手たちの思考力もまた、磨きがかかる90分になっていました。
「彼女たちは、その存在だけでものすごく価値があると思います。私はサッカーで食べていけることがあり得なかった時代の人間なので、プロ選手たちということだけでも素晴らしい。その上で、彼女たちの価値を高め、人生をさらに豊かにしていくひとつのきっかけになったらと思います。今回は多様性でしたが、今、社会的に問われているテーマをみんなで一緒に考える作業が、今日の価値だったのかなと思います。きっと、選手たちはモヤモヤとした気持ちが残ると思うのですが、それは考え始めたということ。この90分が、そのきっかけになればいいですし、選手たちが考えること。新しい世界観を見ることにつながっていたらと思います」と佐伯さんは、勉強会を振り返ります。
クラブスタッフもまた「世の中すごく変わってきて、いろいろなことが当たり前ではなくなってきているのが現状です。その中で、浦和は『サッカーをはじめとするスポーツの感動や喜びを伝え、スポーツが日常にある文化を育み、次世代に向けて豊かな地域・社会を創っていきます。』という理念のもとに活動をしています。社会が平和で豊かではないと、サッカーはできません。理念の実現に向かっていく上でも“多様性”はすごく大事なキーワードになるはずです。今日の勉強会をきっかけに、選手たちが日々の生活などでさまざまな“多様性”を獲得していくことで、理念を体現していくことにつながると思います」と話してくれました。
「多様性は無限」。
勉強会の中でも佐伯さんが口にしていたように、答えがすぐに見つからず、深く広いものだからこそ、考える時間は続いていきます。その一歩を踏み出す形となった『多様性とは何か』を考える勉強会。理念を体現し、彼女たちらしい魅力あふれるサッカーを続けていくために。世界を広げ、思考力に磨きをかけながら、浦和は3度目のリーグ制覇へと戦いを続けていきます。