冷静な判断の中に熱さがある——そんなプレーを藤野あおばは魅せてくれる。激しいコンタクトプレーを受けても身体がブレることなく、的確なキラーパスを出したかと思えば、鋭いシュートでゴールネットを揺らす。2011年になでしこジャパンが世界一になる場面を観て、同じ舞台に立つことを夢見た少女がその夢を現実のものにするまでに、一つひとつを全力プレーで突破してきた道のりがあった。
——サッカーを始めたきっかけは?
兄の影響もありサッカーで遊んでいたのですが、2011年のなでしこジャパンのFIFA女子ワールドカップ優勝をテレビで観て、同じ舞台に立ちたいと思ったことがきっかけです。一番印象に残っているのは、やっぱり決勝の澤(穂希)さんの同点ゴールです。あれはヤバイです(笑)。震えました。
——日テレ・東京ヴェルディベレーザの下部組織である日テレ・メニーナ・セリアスに入り、その後十文字高校へと進みます。
サッカースキルはセリアスで身につけました。フィジカルの部分に関しては十文字高校での経験が土台になっています。高校サッカーではスキルがある人よりフィジカルが強い人がゴリゴリ入っていく感じだったので、背の高い選手、身体が大きい選手と対峙しないようにするのがそもそも不可能でした。
——自分より身体が大きな相手に対してどのように戦っていましたか?
ちょうどその頃U-16女子代表のオランダ遠征があって、海外の選手と初めて対戦する機会がありました。そこで、自分の重心が相手より低いほうがボールを隠せることと、相手の懐に入っていくプレーが通用することに気づきました。それからはとにかく相手の重心を崩すことをかなり意識していました。
——藤野選手はしっかりと分析するタイプなのですね。
中学生の頃から独り言が多かったです(笑)。今はかなり収まってきましたが、頭の中でまとめるのが得意じゃなくて、考えていることを口に出して状況を整理していました。今も試合で上手くいかなかった時に、次はどうしなきゃいけないのかを小声でブツブツ言うことがあります。中学生の頃は感情的になることが多く、負けそうになったらもうやらなくていい、みたいなタイプだったので、自分に言い聞かせる感じで言うようになりました。起こったことを考えて、相手の位置を整理して、試合の中で懸念を消していきます。
——現在は日テレ・東京ヴェルディベレーザでプレーしています。
高校卒業後にどこでサッカーを続けるかは早い段階で考えていましたが、まさかオファーを頂けるとは思っていませんでした。日本女子サッカーのトップレベルと言えばベレーザで、高校生の頃にセリアスからメニーナに昇格できず悔しい想いをしていたので、そこのトップチームに加入できることを想像していなかったですね。
セリアスでのチームメイトは、やるとなったら全力でやる仲間でした。3年間切磋琢磨できたことは恵まれていたと心の底から感じます。よく苦楽を共にした仲間って言うじゃないですか。あの頃は楽なことは一つもなくて、何をやっていても苦しくてキツかったですけど、学ぶことも多かったです。サッカースキルを向上するための根本として全力でプレーすること、全力でプレーすることで感謝を伝えることがサッカー選手のあるべき姿だということはセリアスの頃に教わりました。
——藤野選手が考える「こんなWEリーグにしたい」というビジョンを教えてください。
先日、近くのスーパーでサッカーをやっている高校生の女の子に「藤野選手ですか?」と声をかけられたことで、見られる立場、目標とされる責任ある立場にいることを実感しました。何でも始めるきっかけは、“楽しいから”だと思います。プレーをする側も観る側も楽しそうじゃないと誰も目指したくないと思うので、WEリーグは常に楽しい場所であってほしいです。
——ワールドカップの舞台に立つなでしこジャパンに選出されました。
個人としてもチームとしてもチャレンジャーであることは変わりません。今まで重要な試合ではすごく緊張していつものプレーが出せなかったので、ワールドカップでは挑戦的な姿勢でプレーしたいです。WEリーグも代表合宿もワールドカップのために取り組んできたので、もう出し切るだけです。ゴールも狙っていきたいです!
——ワールドカップや来季のWEリーグで見せたいプレーを教えてください。
今は一つひとつのプレーが完結してしまっているので、プレーに流動性や連続性を入れて選択肢を増やしたいです。それによってクロスを上げる位置のバリエーションを増やせたり、シュートレンジを広げられると思います。
今シーズンはスプリントの回数にこだわっていました。さらに増やすことで得点チャンスを広げて、来シーズンこそWEリーグでタイトルを獲得したいです!
(インタビュー・構成=早草紀子)
【プロフィール】
藤野あおば(ふじの あおば)
2004年1月27日生まれ、東京都出身
FW、背番号11
南大沢FC → 日テレ・メニーナ・セリアス → 十文字高校 → 日テレ・東京ヴェルディベレーザ